「自分で本を作る」という意味では、自費出版も同人誌も同じです。
でも、この2つの言葉から受ける印象は、だいぶ違いますよね。
「自費出版」というと、ちょっと堅くて真面目なイメージ。
「同人誌」というと、マンガやアニメ、コミケといった楽しげなイメージ。
実際、この2つの間には、文化やルールの違いという深い溝(あるいはグラデーション)があります。
自分が作りたい本はどっちなのか?
迷っている方のために、その境界線を紐解いてみましょう。
定義と文化の違い
まずは、それぞれの言葉が持つ背景や文化の違いから見ていきましょう。
自費出版:一般書籍の体裁をとり、広く読まれることを意識
自費出版は、商業出版と同じ「書籍」のフォーマットを目指します。
ISBN(図書コード)を取得し、国立国会図書館に納本し、一般の読者に広く読んでもらうことを想定しています。
ジャンルとしては、自分史、小説、エッセイ、ビジネス書、実用書などが中心です。
「社会的な信用」や「記録としての価値」を重んじる文化があります。自費出版と商業出版の違いとは?費用・決定権・流通を徹底比較 もあわせてご覧ください。
同人誌:同じ志を持つ仲間内での共有、ファン活動
同人誌は、もともと「同じ志を持つ人(同人)」が集まって作る雑誌から始まりました。
現在では、マンガ、アニメ、ゲームなどの二次創作や、オリジナルの創作物を、好きな人同士で共有して楽しむ活動全般を指します。
ISBNは取得しないことが多く、あくまで「サークル活動」の一環という位置づけです。
流通チャネルの違い
作った本を「どこで売るか」という場所も、住み分けがされています。
自費出版:書店、Amazon、楽天、図書館
自費出版の本は、一般の書店やネット書店での販売を目指します。
「本屋さんに並ぶこと」をゴールにする著者が多いです。
図書館に寄贈して、地域の人に読んでもらうこともあります。
同人誌:即売会(コミケなど)、同人ショップ、BOOTH
同人誌の主戦場は、コミックマーケット(コミケ)などの即売会イベントです。
対面で読者(ファン)と交流しながら販売するのが醍醐味です。
また、「とらのあな」や「メロンブックス」といった同人ショップや、BOOTHなどの通販サイトで委託販売されることも一般的です。
制作方法と仕様の違い
本の作り方にも、それぞれの文化色が反映されています。
自費出版:編集者やデザイナーが入ることが多い
クオリティを重視するため、プロの編集者やデザイナーに依頼して制作するケースが多いです。
装丁も、一般書籍と同じような、落ち着いたデザインが好まれます。
同人誌:著者が全て行うことが多い、特殊紙や装丁の遊びが多い
同人誌は、執筆からデザイン、入稿まで、すべて著者が一人で行う(あるいはサークルメンバーと分担する)のが基本です。
その分、装丁へのこだわりは凄まじく、キラキラした箔押しや、変わった手触りの特殊紙を使うなど、遊び心満載の本が多いのも特徴です。
出版費用の違い
お金のかけ方も対照的です。
自費出版:費用が大きく、時には数百万円になることもある
プロの手を借り、流通ルートに乗せるため、どうしても費用は高額になりがちです。
数十万円〜数百万円という投資が必要になることもあります。
同人誌:費用が小さく、数万円で完成することが多い
印刷費のみ(原稿料やデザイン料は自分なのでタダ)で済むため、数万円〜十数万円程度で作れます。
少部数(数十部〜)から印刷してくれる印刷所も多く、お小遣いの範囲で楽しむことができます。
権利と責任の違い
最後に、権利関係の違いです。
自費出版:出版社との契約がある場合も、著作権は著者
出版社を通じて出す場合でも、著作権は著者にあります。
契約書を交わし、権利関係を明確にすることが一般的です。
同人誌:二次創作の場合は版権元との関係に注意が必要
オリジナルの同人誌なら問題ありませんが、既存の作品を題材にした二次創作(パロディなど)の場合、著作権法上はグレーゾーン(親告罪)での活動となります。
版権元のガイドラインを守り、ファン活動の範囲内で楽しむというマナーが求められます。
まとめ
最近では、Amazonで売られる同人誌があったり、コミケで売られる評論系の自費出版があったりと、両者の境界線は曖昧になりつつあります。
大切なのは「言葉の定義」ではなく、「あなたが誰に向けて、どんなふうに本を届けたいか」です。
広く社会に発信したいなら自費出版、濃いファンと交流したいなら同人誌。
自分のスタイルに合ったフィールドを選んで、本作りを楽しんでください。
