「せっかく本を出すなら、たくさんの人に読んでもらいたい」
そう思うのは当然ですが、張り切って何千部も刷ってしまい、自宅が段ボールの山になってしまった…という失敗談は後を絶ちません。
自費出版において、部数設定は費用とリスクに直結する非常に重要な決断です。
後悔しないための「適正部数」の考え方を、一緒に見ていきましょう。
自費出版の適正部数は?
結論から言うと、「誰に、どうやって届けるか」によって正解は変わります。
一概に「〇〇部がおすすめ」とは言えませんが、目的別の目安はあります。
目的によって部数は変わる(記念、販売、ブランディング)
家族や友人に配るだけの記念誌なら、配布する人数分+予備で十分です(30〜50部程度)。
セミナーや講演会で販売するなら、年間の登壇回数や参加者数から逆算できます。
書店に流通させて広く世に問いたいなら、ある程度の部数が必要になりますが、それでも慎重な判断が必要です。
書店流通させるなら最低1000〜3000部は必要?
一般的に、書店流通を目指すなら1000部〜3000部は必要だと言われています。
全国の書店に配本するには、それなりの数がないと物理的に行き渡らないからです。
しかし、これはあくまで「配本するなら」の話。
無名の新人の本が、最初から全国の書店に並ぶハードルは高いことを忘れてはいけません。
在庫リスクを避けるなら100部以下が安全
初めての出版で、販売予測が立たない場合は、100部以下からスタートするのが安全です。
最近は少部数でも安く作れる印刷サービスが増えています。
「足りなくなったら増刷する」というスタンスの方が、精神的にも金銭的にも負担が少なくて済みます。1冊から少部数(小ロット)で自費出版!在庫リスクなしで本を作る方法 も参考にしてください。
プリントオンデマンド(POD)なら「部数」を決めなくていい
そもそも、まとめて印刷する必要がなければ「部数」という概念自体がなくなります。
プリントオンデマンド(POD)なら、注文が入ってから1冊ずつ印刷されるため、在庫リスクはゼロ。
何冊売れても追加の印刷費はかからず、売れ残りの心配もありません。
まずはPODで様子を見て、反応が良ければまとめて印刷するという方法も賢い選択です。

部数と費用の関係
部数を決めるときに知っておきたいのが、印刷方式による費用の違いです。
「たくさん刷った方が1冊あたりは安くなる」というのは事実ですが、そこには落とし穴もあります。
オフセット印刷:部数が多いほど1冊あたりの単価は下がる
商業出版などで使われる「オフセット印刷」は、版を作って大量に印刷する方式です。
版代という固定費がかかるため、部数が増えれば増えるほど、1冊あたりの単価は劇的に下がります。
「100部も500部も総額があまり変わらないなら、500部刷ろうかな」という心理が働きやすいのがこのパターンです。
オンデマンド印刷:部数に関わらず単価はほぼ一定
一方、版を作らずにデータを直接出力する「オンデマンド印刷」は、1冊あたりの単価がほぼ一定です。
少部数なら圧倒的に安いですが、大量に刷っても単価はあまり下がりません。
必要な分だけこまめに刷るのに適しています。
損益分岐点(何部売れば元が取れるか)の計算
「単価が安いから」といって大量に刷っても、売れ残れば全て赤字です。
重要なのは「何部売れば元が取れるか」という損益分岐点の計算です。
例えば、総額50万円かけて1000部作った場合、1冊1000円で売っても500部売らなければ赤字です。
500部を個人の力で売るのがどれだけ大変か、想像してみましょう。
「多めに刷った方がお得」の罠
印刷会社や出版社の営業担当は、「あと少し出せば倍の部数が作れますよ」と勧めてくることがあります。
しかし、その「お得」は「完売できれば」という前提の話です。
在庫を抱えるストレスや保管場所のコストを考えれば、多少単価が高くても、売り切れる部数で作る方が結果的には「お得」なのです。
部数を決めるためのチェックリスト
適正部数を見極めるために、以下の項目をチェックしてみましょう。
現実的な数字が見えてくるはずです。
誰に読んでもらいたいか(ターゲット読者数)
具体的に顔が浮かぶ読者は何人いますか?
年賀状の枚数、SNSのフォロワー数、メルマガの登録者数など。
「なんとなく1000人くらい」ではなく、根拠のある数字を積み上げてみてください。
自分で手売りできる限界数は?
書店に頼らず、自分で手売りできる数はどれくらいでしょうか。
講演会やイベントで毎回10冊売れるとして、年間何回開催できるか。
友人に頼んで買ってもらえるのは何人か。
シビアに見積もった数字が、安全圏の部数です。
保管スペース(自宅、倉庫)の確保
本は意外と場所を取ります。
500部の本(四六判)は、みかん箱くらいの段ボールで10箱以上になります。
自宅の部屋が段ボールで埋め尽くされる光景を想像してみてください。
保管スペースがないなら、POD(プリント・オン・デマンド)や電子書籍を選ぶべきです。
増刷(重版)の可能性
最初から大量に刷る必要はありません。
売れ行きが良ければ増刷(重版)すればいいのです。
「重版出来!」というのは著者にとって嬉しいニュースですし、宣伝効果もあります。
初版は少なめに抑え、需要に合わせて追加していくのが現代のスマートな出版スタイルです。
失敗しない部数設定の戦略
リスクを最小限に抑えつつ、出版の夢を叶えるための具体的な戦略をご提案します。
スモールスタート(少部数)で様子を見る
まずはオンデマンド印刷で30部〜50部程度作り、身近な人に配ったり販売したりして反応を見ます。
そこで手応えがあれば、修正を加えて部数を増やせばいいのです。
小さく産んで大きく育てるのが、失敗しないコツです。
クラウドファンディングで予約数だけ刷る
出版費用をクラウドファンディングで募り、支援してくれた人の数だけ印刷するという方法もあります。
これなら在庫リスクはゼロですし、出版前からファンを獲得できるというメリットもあります。
POD(プリント・オン・デマンド)を併用する
MyISBNやムゲンブックスなどのPODサービスを利用すれば、注文が入るたびに1冊ずつ印刷・発送してくれます。
著者が在庫を持つ必要は全くありません。
手売り用には少部数を印刷し、ネット販売はPODに任せるというハイブリッドな方法がおすすめです。
「完売」の実績を作ることを優先する
大量に刷って売れ残るより、少部数でも「完売」したという実績の方が、次のステップに繋がります。
「売り切れたから増刷しました」と言えるのは、著者としての自信にもなります。
まとめ
部数は著者の「見栄」で決めるものではなく、「実需」で決めるべきものです。
「たくさん刷れば売れる」という幻想は捨てましょう。
大切な本が在庫の山となって埃をかぶる姿は見たくありませんよね。
読み手の顔を思い浮かべながら、無理のない部数でスタートしてください。
