「あなたの作品には才能があります。ぜひ出版しましょう!」
自分の書いたものを認めてもらえるのは嬉しいものです。
しかし、その言葉が、あなたのお金を狙う「罠」だとしたら……?
自費出版の世界には、著者の純粋な夢につけ込む悪質な業者や、知識不足によるトラブル、そして「こんなはずじゃなかった」という後悔が渦巻いています。
数百万円を支払ったのに本が出ない、書店に並ばない、借金だけが残った。
そんな被害に遭わないために、詐欺の手口、よくあるトラブル、失敗のパターンをすべて解説します。
1. 自費出版詐欺と悪徳業者の手口
彼らは言葉巧みに近づいてきます。典型的な手口を知っておきましょう。
褒め殺し商法(原稿募集詐欺)
新聞広告やWebサイトで原稿を募集し、応募してきた人に対して「素晴らしい才能だ」「このまま埋もれさせるのは惜しい」と絶賛します。
そして「出版すれば必ず売れる」と持ちかけ、数百万円の高額な契約を結ばせます。
プロの編集者なら、安易に「必ず売れる」とは言いません。
コンテスト商法・新人賞詐欺
「出版コンテスト」や「新人賞」を開催し、応募者全員(または多数)に「賞には漏れたが、優秀作なので特別推薦枠で出版できる」と連絡します。
受賞したと錯覚させ、出版費用を請求する手口です。
過去には、業界最大手だった「新風舎」(2008年に破産)がこの手法で多くのトラブルを起こしました。
同社は様々なコンテストで作品を募集し、落選した応募者に対して「出版すれば売れる」などと勧誘して高額な出版費用を負担させていました。しかし、実際には書店に並ばないなどの苦情が相次ぎ、訴訟にも発展しました。
参考:wikipedia-自費出版(新風舎の事例)
応募規定の中に、「入賞した場合の版権は出版社に帰属する」などの項目がある場合は気をつけてください。
全員に「入賞しました」と業者が送っていればどうでしょう?
あなたの作品はその出版社から出版するしか世に出す方法がなくなってしまいます。
「共同出版」の罠
「あなたの作品は素晴らしいので、弊社も費用を負担する『共同出版』にしましょう」
そう言われると選ばれたような気になりますが、実際には著者が払う費用だけで業者の利益が出るようになっています。
実質的にはただの高額な自費出版です。共同出版(協力出版)とは?甘い言葉に隠されたリスクと正しい活用法 でリスクを解説しています。
悪徳業者の見分け方
- 会社の住所:レンタルオフィスやバーチャルオフィス、アパートの一室などは要注意。
- 社長の名前:過去に問題を起こして会社の名前を変更しても、社長の名前は一緒のケースもあります。
- 契約を急かす:「今だけ」「あなただけ」と考える時間を与えない。
- 実績がない:Amazonで検索しても、その出版社の本がほとんど出てこない。
2. よくあるトラブル事例
詐欺とまでは言えなくても、認識のズレや確認不足からトラブルになるケースは多いです。
費用トラブル:見積もりより高い
「最初は100万円と言われていたのに、校正やデザイン変更のたびに追加料金を取られ、最終的に200万円になった」
費用の総額と内訳(どこまでが含まれているか)を契約前に確認しないと、こうした事態になります。
流通トラブル:書店に並ばない
「全国の書店に並ぶと言われたのに、近所の本屋にも置いていない」
「流通する」=「書店に平積みされる」ではありません。
多くの場合は「注文があれば取り寄せできる」状態になるだけです。この仕組みを誤解しているとトラブルになります。
実際に、2007年7月4日には、元大学教授ら3人が、全国約800の書店で販売される等と勧誘されて新風舎と契約を結んだにもかかわらず、実際には一部の書店(原告のひとりの場合にはわずか3店)でしか販売されなかったとして、約800万円の賠償を請求する訴訟を東京地方裁判所に提起したと報じられました。
参考:wikipedia-共同出版
制作トラブル:質が低い
「プロが校正したはずなのに誤字脱字だらけ」「表紙デザインがイメージと違う」
制作過程でのコミュニケーション不足や、業者のスキル不足が原因です。
著作権トラブル
「勝手に電子書籍化された」「契約終了後もデータが削除されない」
契約書で著作権の帰属を確認していないと、権利関係で揉めることになります。
3. 自費出版で失敗・後悔する人のパターン
業者だけのせいではありません。著者自身の判断ミスによる失敗もあります。
在庫の山を抱えてしまった
「売れるはずだ」と見込んで数千部刷ったものの、全く売れず、自宅が在庫の段ボールで埋め尽くされる。
場所も取るし、見るたびに心が痛みます。
借金をしてまで出版した
「売れれば返せる」と皮算用してローンを組んだが、回収できずに借金だけが残った。
生活を脅かす最も深刻な失敗パターンです。
ターゲット読者が不在(自己満足)
「誰に読んでほしいか」が明確でなく、独りよがりな内容の本を作ってしまった。
読者は自分に関係のあることしか読みません。
4. 被害に遭わない・後悔しないための対策
即決せず、比較検討する
その場で契約書にサインしてはいけません。
必ず持ち帰って検討し、複数の業者から見積もりを取りましょう。相場を知ることが大切です。
自費出版の費用相場とシミュレーション!100部・500部の見積もり目安 で適正価格を確認してください。
「お金を払うのは自分」という意識を持つ
「共同出版」などの言葉に惑わされず、「自分が費用を負担する自費出版である」という事実を忘れないでください。
リスクを負うのは業者ではなく、あなた自身です。
小さく始める(PODや電子書籍)
いきなり大量部数を刷るのではなく、MyISBNなどのPOD(プリント・オン・デマンド)やKindleで小さく出版し、反応を見ましょう。
これなら数千円〜数万円で済むため、致命的な失敗(大赤字)は防げます。

もし被害に遭ったら
- 消費者センター(188):「おかしいな」と思ったら、すぐに消費生活センター(局番なしの188)に相談しましょう。
- クーリングオフ:原則対象外ですが、電話勧誘販売などの場合は適用される可能性があります。
- 弁護士:被害額が大きい場合は、弁護士に相談して返金交渉を行いましょう。
まとめ
自費出版は、あなたの夢を叶える素晴らしいプロジェクトですが、そこにはリスクも潜んでいます。
「うまい話には裏がある」と肝に銘じ、冷静な判断力を持ってパートナーを選んでください。
そして、リスクをコントロールしながら、賢く出版を楽しんでください。
正しい知識があれば、トラブルは防げます。
