「お金を出して作った本なんだから、権利は全部自分のものですよね?」
そう思っていると、思わぬ落とし穴にはまるかもしれません。
著作権は、目に見えないけれど非常に強力な権利です。
契約書にハンコを押した瞬間、あなたの大切な作品の権利が、出版社に移ってしまうこともあるのです。
「絶版になったのに、他の出版社から出せない」
「勝手に電子書籍化されてしまった」
そんなトラブルを防ぐために、自費出版における著作権の基本と、自分の権利を守るための知識を身につけましょう。
自費出版の著作権は誰のもの?
原則として、書いた人(著者)にあります。しかし、契約次第で変わります。
基本的に著者に帰属する(著作者人格権と財産権)
著作権には、大きく分けて2つの権利があります。
- 著作者人格権:公表するかどうか、名前をどう表示するか、内容を勝手に変えられない権利など。これは譲渡できません。
- 著作権(財産権):複製したり、ネットで配信したりして利益を得る権利。これは他人に譲渡できます。
出版社に譲渡する契約になっていないか確認する
ここが重要です。
契約書に「著作権を出版社に譲渡する」という条項があると、あなたは自分の本なのに自由に増刷したり、Webで公開したりできなくなります。
自費出版の場合、著者が費用を負担しているのですから、著作権は著者に留保されるのが一般的です。
編集者やデザイナーの権利(二次的著作物)
文章はあなたのものですが、表紙のデザインや、編集者が加筆修正した部分には、デザイナーや編集者の著作権が発生する場合があります。
将来、他の出版社から出し直す時に、表紙デザインをそのまま使えるかどうかは確認が必要です。
電子書籍化する際の権利関係
紙の本の契約をしたからといって、電子書籍の権利まで出版社に渡しているとは限りません。
「電子化の権利は出版社が優先的に持つ」といった条項が含まれていることが多いので、確認しましょう。
著作権侵害になるケース・ならないケース
自分の権利を守るだけでなく、他人の権利を侵害しないことも大切です。
引用のルール(主従関係、明瞭区分、出典明記)
他人の文章や図表を使う場合は、「引用」の要件を満たす必要があります。
– 自分の文章が「主」で、引用部分が「従」であること。
– カギ括弧などで引用部分がはっきり区別されていること。
– 出典(著者名、書名、出版社など)を明記すること。
これらを守れば、許可なく使えます。
写真やイラストの無断使用
ネットで拾った画像を勝手に使うのはNGです。
フリー素材を使うか、著作者に許可を取りましょう。
歌詞や翻訳の掲載(JASRACなどへの申請)
歌詞を掲載する場合は、JASRAC(日本音楽著作権協会)などへの申請と使用料の支払いが必要です。
翻訳権も原作者にあります。
パブリックドメインの活用
著作者の死後70年が経過した作品などは、著作権が消滅し「パブリックドメイン」となります。
これらは自由に利用できます(青空文庫など)。
自分の本を守るために
大切な作品を守るための対策です。
著作権登録制度の利用(必須ではない)
文化庁に著作権登録をすることができますが、著作権は「書いた瞬間」に自然に発生するものなので、登録は必須ではありません。
著作権譲渡の際などに第三者に対抗するために使われることが多いです。
無断転載や海賊版への対応
自分の本が勝手にネットにアップされていたら、サイト管理者に削除要請を出します。
契約書での権利範囲の明確化
「何年契約か」「電子書籍はどうするか」「二次利用(ドラマ化など)はどうするか」。
これらを契約書ではっきりさせておくことが、最大の防御です。自費出版の契約で失敗しない!契約書の種類とチェックすべき重要条項 も必ず確認しましょう。
出版権の設定(独占的な出版許可)
出版社に対して「独占的に出版する権利(出版権)」を設定する場合、その期間中は著者自身も他の出版社から出すことはできません。
著作権契約のトラブル事例
実際によくあるトラブルです。
絶版後に他社から出せない
契約期間が続いている限り、たとえ出版社が本を刷ってくれなくても(絶版状態)、他社から出すことができません。
「絶版になったら契約終了」という条項を入れておくべきです。
電子書籍の権利を出版社が手放さない
紙の本は絶版なのに、電子書籍の権利だけ出版社が持っていて、著者が自由に動けないケースがあります。
権利を持ったまま出版社が倒産した
電子書籍化できない場合や、復刊できない場合は大体がこのケースです。
「著者なのに権利はないが、誰が持っているかも不明」なため非常に難解です。
二次利用(ドラマ化など)の収益配分
もし本がドラマ化された場合、原作使用料はどう配分されるのか。
夢のような話ですが、決めておかないと揉める原因になります。
契約終了後の在庫の扱い
契約が終わった時、倉庫に残っている本はどうなるのか。
著者が買い取るのか、断裁処分するのか。
まとめ
著作権は、著者が生み出した「知的財産」であり、最大の宝物です。
難しい法律用語にアレルギーを起こさず、自分の権利は自分で守る意識を持ちましょう。
契約書を隅々まで読み、納得してからサインする。
その慎重さが、あなたの作品と、作家としての未来を守ることにつながります。
