研究室のデスクに積み上げられた資料、パソコンの中に眠る膨大なデータ。
それらは、あなたが長い年月をかけて積み上げてきた「知の結晶」です。
研究者にとって、成果を論文として発表することは日常ですが、それを一冊の「本」としてまとめ上げることは、また別の特別な意味を持ちます。
専門分野の発展に寄与し、後進の道しるべとなり、そして何より、あなた自身の研究人生の集大成となる学術書。
ここでは、その出版の意義と、専門書ならではの制作ポイントについて解説します。
学術書・論文集を自費出版する意義
学術書は、ベストセラーを目指すものではありません。
しかし、人類の知のアーカイブとして、なくてはならない存在です。
研究成果の公表と保存
研究成果は、公表されて初めて「知」として共有されます。
散逸しやすい論文や資料を一冊にまとめることで、体系的な知識として保存され、参照されやすい形になります。
学界への貢献と評価
質の高い学術書を出版することは、その分野の研究レベルを底上げし、学界全体への貢献となります。
また、著者自身の研究者としての評価(業績)を高めることにも繋がります。
博士論文の書籍化
博士号取得のために執筆した博士論文を、加筆・修正して書籍化するケースは多いです。
単なる学位論文から、より広い読者(研究者や学生)に向けた専門書へと生まれ変わらせます。
退官記念や研究会の記念誌
大学教授の退官記念として、教え子たちが論文を持ち寄って論文集を作ったり、研究会の設立記念に業績集を編んだり。
学問を通じた絆を形にする、記念碑的な出版です。
学術書制作の専門的なポイント
一般書とは異なり、学術書には厳密なルールと高い正確性が求められます。
脚注・参考文献の正確な表記
引用の出典や参考文献の記載は、学術書の命です。
分野ごとのスタイルガイド(APAスタイル、MLAスタイルなど)に従い、一字一句正確に表記する必要があります。
図表や数式のレイアウト
複雑な数式、グラフ、図版などを、誤りなく、かつ美しく配置するには、高度な組版技術が必要です。
専門書の実績がある印刷会社や出版社を選ぶことが重要です。
索引の作成(人名・事項)
使い勝手の良い学術書には、充実した索引が不可欠です。
キーワードを抽出し、ページ数を特定して並べ替える作業は根気が要りますが、本の価値を大きく左右します。
査読や監修の有無
自費出版であっても、権威ある研究者に監修を依頼したり、仲間内で査読し合ったりすることで、内容の信頼性を担保することができます。
費用と助成金
専門書は制作費が高くなりがちですが、資金調達の方法もいくつかあります。
専門書は少部数・高単価になりがち
読者が限定されるため、どうしても少部数発行となり、一冊あたりの単価(定価)は高くなります。
しかし、必要な人は高くても購入するため、適正な価格設定が重要です。
科学研究費助成事業(科研費)の活用
日本学術振興会の「科学研究費助成事業(研究成果公開促進費)」など、学術書の出版を支援する公的な助成金制度があります。
審査はありますが、採択されれば費用の大部分をカバーできます。
大学や学会の出版助成制度
所属する大学や学会独自に出版助成金を用意している場合もあります。
事務局に問い合わせてみましょう。
オンデマンド出版によるコスト削減
MyISBNなどのオンデマンド出版なら、在庫を持たずに必要な分だけ印刷できるため、出版費用を大幅に抑えることができます。MyISBNの場合、出版費用は4,980円のみです。
絶版の心配がないのも、息の長い学術書には大きなメリットです。
多くの教科書や専門書が、このサービスを通じて出版されています。プリント・オン・デマンド出版(POD出版)とは?在庫リスクなしで紙の本を出す仕組みとサービス比較 で仕組みを確認できます。
学術書の流通と図書館
学術書の主な行き先は、個人読者よりも図書館や研究機関です。
大学図書館や国立国会図書館への納本
出版した本は、国立国会図書館へ納本する義務があります(納本制度)。
これにより、国民の文化的資産として永く保存されます。
また、各大学の図書館に寄贈・配本することで、学生や研究者の目に触れる機会が増えます。自費出版したら国会図書館に納本しよう!義務?メリットは? に詳しく手順をまとめています。
専門書店への配本
一般書店ではなく、その分野に強い専門書店や、大学生協などに置いてもらうのが効果的です。
学術リポジトリや電子ジャーナルとの関係
最近は、オープンアクセス化の流れで、本の内容を機関リポジトリで公開することも増えています。
紙の本と電子データの役割分担を考える必要があります。
英文出版による海外発信
研究成果を世界に問いたいなら、英語で出版し、Amazonなどを通じて海外へ流通させることも可能です。
まとめ
学術書を作ることは、知のバトンを未来へ渡すことです。
あなたの研究が、10年後、50年後、あるいは100年後の誰かの研究の礎になるかもしれません。
その責任と誇りを胸に、正確で、誠実な一冊を作り上げてください。
それはきっと、学問の海を照らす灯台となるはずです。
