「紙の本を出したいけれど、在庫の山ができるのは怖い」
「数百部も刷るお金はないけれど、数冊だけ形にしたい」
そんな著者の悩みに応える画期的な技術、それが「オンデマンド出版」です。
一般的には「POD(プリント・オン・デマンド)」とも呼ばれます。
従来の出版の常識を覆すこの仕組みは、自費出版のハードルを一気に下げました。
まるで注文を受けてから料理を作るレストランのように、必要な時に必要なだけ本を作る。
そんなスマートな出版スタイルについて、仕組みから具体的なサービスまで詳しく解説します。
プリント・オン・デマンド(POD)の仕組み
プリント・オン・デマンド(Print-on-Demand)とは、「要求があり次第」という意味です。自費出版はAmazonで売るのが正解!流通の仕組みと販売戦略 と深く関係しています。
Amazonなどのネット書店と印刷工場が直結したシステムにより、以下のような流れで本が届きます。
- 著者がデータを登録する:本文と表紙のデータを登録します。
- Amazonで販売開始:商品ページができ、読者が注文できるようになります。この時点では、本という「物体」はまだ存在しません。
- 注文が入る:読者がポチッと購入ボタンを押します。
- 自動で印刷・製本:注文データが即座に印刷工場へ飛び、高性能なデジタル印刷機で1冊だけ印刷・製本されます。
- 発送・お届け:完成した本が梱包され、通常の商品と同じように読者へ発送されます。
これらすべてが自動で行われるため、著者は発送の手間も在庫の心配も一切ありません。
プリント・オン・デマンド(POD)出版のメリット
この技術革新は、著者にとって数え切れないほどのメリットをもたらしました。
在庫を抱える必要がない(リスクゼロ)
これが最大の革命です。売れるかどうかわからない本を大量に刷って倉庫に積んでおく必要がありません。
在庫管理費も、廃棄処分費もゼロ。「部屋が本で埋まる」という自費出版の悪夢から解放されます。
初期費用を大幅に抑えられる
大量印刷のコストがかからないため、初期費用は劇的に安くなります。
後述するサービスを使えば、数千円〜無料で出版することも可能です。自費出版の費用相場とシミュレーション!100部・500部の見積もり目安 と比べてみてください。
お小遣い程度の金額で、Amazonや楽天ブックスで自分の本が売られるようになるのです。
絶版がない(永続的に販売可能)
データさえあればいつでも印刷できるので、「品切れ」「絶版」という概念がありません。
10年後にふと注文が入っても、ちゃんと新品の本を届けることができます。
改訂や修正が容易
大量に刷ってしまった本は直せませんが、オンデマンド出版ならデータを差し替えるだけで、次の注文分からは修正版が届きます。
内容を常に最新の状態にアップデートできるのは、実用書などでは大きな強みです。
プリント・オン・デマンド(POD)出版のデメリット
万能に見えるオンデマンド出版にも、苦手な分野はあります。
1冊あたりの印刷費用が割高になる
版代がかからないとはいえ、1冊ずつ印刷するコストは、大量印刷した場合の1冊単価よりは高くなります。
しかし、書店と出版社が直接やりとりできるため、取次の手数料がかかりません。
差し引きすると本の価格は、同程度に設定される傾向があります。
大量印刷には向かない
「講演会で配るために1,000冊欲しい」といった場合は、オフセット印刷の方が圧倒的に安く、早く仕上がります。
数百部以上を一度に作るなら、プリント・オン・デマンドは割高になりますが、最近は印刷会社側で自動的にオフセット印刷に切り替えてコスト調整する仕組みもあります。
装丁や仕様に制限がある
効率化のために、用紙やサイズが規格化されていることが多いです。
基本的にカバー(ジャケット)のないソフトカバー本(ペーパーバック)になります。
「表紙に金箔を押したい」「ハードカバーにしたい」といったこだわりの装丁は、対応できない場合がほとんどです。
オンデマンド出版が向いているケース
- 専門書や学術書:読者層が限られているが、確実に必要としている人がいる本。
- 自分史や記念誌:家族や親戚、友人だけに配りたい少部数の本。
- テストマーケティング:まずはリスクなしで出版し、市場の反応を見たい場合。
- バックナンバーの復刊:絶版になった過去の作品を再販したい場合。
主要なPOD出版サービス比較
個人が利用できる代表的なPODサービスを紹介します。
MyISBN(マイアイエスビーエヌ)
費用:4,980円(税別)
特徴:デザインエッグ株式会社が運営する老舗サービス。低価格でISBN・JANコード付きの紙の本をAmazonと楽天ブックスで販売できます。操作がシンプルで初心者にもおすすめです。
公式サイト
ムゲンブックス
費用:無料
特徴:こちらもデザインエッグ社のサービスですが、出版費用が無料です。その代わり、本のサイズなどに一部制限がありますが、とにかくコストをかけずに出版したい人には最強の選択肢です。
公式サイト
Puboo(パブー)
費用:電子書籍は無料、紙の本は5,000円(税別)
特徴:ブログ感覚でサービス内で文章を執筆し、そのまま電子書籍や紙の本にもできる手軽さが魅力です。PCが苦手な方でも簡単に操作できます。
公式サイト
NextPublishing
費用:有料(プランによる)
特徴:インプレスR&Dが運営する、より本格的な著者向けのサービス。小規模で出版社を作りたい方にはおすすめです。
公式サイト
まとめ
オンデマンド出版(POD)は、出版の「大量生産・大量消費」のモデルを変える、環境にもお財布にも優しい仕組みです。
「本を出したいけれどリスクは取りたくない」という慎重派のあなたにこそ、おすすめしたい方法です。
まずはこの身軽なスタイルで、著者への第一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。
