「本が売れないこと」よりも怖いこと。
それは「売れ残った本の山に囲まれて暮らすこと」かもしれません。
自費出版において、最も物理的・精神的な負担となるのが「在庫」です。
「安くなるから」と一度に大量に刷ってしまい、自宅の部屋が段ボールで埋め尽くされ、家族に白い目で見られる……。
そんな「在庫地獄」に陥らないために、在庫のリスクと、在庫を持たない新しい出版スタイルについて解説します。
自費出版の在庫リスク
紙の本を作る以上、在庫の問題は避けて通れません。
書店流通のために大量印刷が必要な場合
書店に本を並べるためには、ある程度の部数(数百部〜数千部)を印刷する必要があります。
オフセット印刷の場合、たくさん刷れば刷るほど1冊あたりの単価は下がりますが、その分、総額と在庫リスクは跳ね上がります。
自宅が本の山で埋め尽くされる恐怖
1,000冊の本がどれくらいの体積になるか想像できますか?
6畳一間が段ボールで埋まる量です。
生活スペースが圧迫されるだけでなく、床が抜ける心配もしなければなりません。
湿気や虫食いの管理も大変です。
保管料(倉庫代)が毎月かかるケース
自宅に置けない場合、出版社の倉庫やレンタル倉庫を借りることになりますが、毎月数千円〜数万円の保管料がかかり続けます。
本が売れなくても、維持費だけで赤字が膨らんでいきます。
在庫は「資産」だが売れなければ「負債」
会計上、在庫は「資産」として計上されますが、売れる見込みのない在庫は、税金がかかるだけの「負債」でしかありません。
在庫を持たない出版方法
今は、在庫リスクをゼロにできる時代です。
Amazon POD(プリント・オン・デマンド)の活用
MyISBNなどのPODサービスを使えば、Amazonや楽天ブックスで注文が入ってから1冊ずつ印刷・製本して発送してくれます。プリント・オン・デマンド出版(POD出版)とは?在庫リスクなしで紙の本を出す仕組みとサービス比較 で仕組みを解説しています。
事前に在庫を持つ必要が全くありません。
在庫管理も、発送作業も、すべてお任せできます。

電子書籍(Kindle)のみでの出版
データで販売する電子書籍なら、物理的な在庫は存在しません。電子書籍(Kindle)で自費出版する方法!仕組み・印税・成功のコツを完全解説 もご覧ください。
スマホやタブレットで手軽に読めるため、普及が進んでいます。
少部数印刷(オンデマンド印刷)で様子を見る
どうしても手元に在庫を持ちたい場合でも、オンデマンド印刷なら10冊、50冊といった少部数から作れます。
単価は高くなりますが、大量在庫を抱えるリスクは回避できます。
先ほどのMyISBNの場合は、著者だけは割引で自著を購入できるようになっています。
予約販売(クラウドファンディング)で必要数だけ作る
クラウドファンディングで事前に購入者を募り、予約注文が入った数だけ印刷する方法です。
これなら売れ残る心配がありません。
余った在庫の活用法
もしすでに在庫を抱えてしまっているなら、有効活用しましょう。
講演会やイベントでの手売り・配布
自分が登壇するセミナーやイベントで販売したり、名刺代わりにプレゼントしたりします。自費出版は「手売り」が一番儲かる?直販の魅力と売るためのコツ も参考にしてください。
直接手渡すことで、ファンになってもらえる可能性が高まります。
図書館や施設への寄贈
地元の図書館や、本の内容に関連する施設(病院、学校、介護施設など)に寄贈します。
多くの人に読んでもらえるチャンスです(※受け入れてもらえない場合もあります)。
名刺代わりに配る(営業ツール)
営業先に「私の著書です」と渡せば、インパクトのある自己紹介になります。
広告宣伝費と割り切りましょう。
読者プレゼント企画に使う
SNSなどで「フォロー&リツイートで書籍プレゼント」といった企画を行い、フォロワーを増やすためのツールとして活用します。
在庫処分の最終手段:廃棄
どうしても捌ききれない場合、最終的には「廃棄」という選択を迫られます。
これは著者の責任として、作品の「最期」を看取ることでもあります。
廃棄せざるを得なくなる理由
なぜ、大切に作った本を捨てなければならないのでしょうか。
- 書店からの返品:委託販売で売れ残った本が大量に戻ってきて、置き場所がなくなる。
- 保管料の負担:毎月の倉庫代が重荷になり、「これ以上は無理」と判断する。
- 情報の陳腐化:内容が古くなり、商品価値がなくなった(時事ネタなど)。
- 遺品整理:著者が亡くなり、遺族が処分に困る。
廃棄処分の具体的な方法と費用
本を捨てるにも、実はお金がかかります。
1. 古紙回収業者に依頼する(溶解処理)
最も一般的な方法です。専用の釜でドロドロに溶かし、再生紙の原料にします。
本の形が残らず、誰かに読まれる心配もないため、心情的にも整理がつきやすい方法です。
費用相場は、段ボール1箱(約20kg)で数百円〜千円程度(業者による)です。
2. 産業廃棄物として処理する
事業として出版した場合などは、産廃として処理することもあります。費用はかかりますが確実です。
3. 自分で少しずつ資源ゴミに出す
少量であれば自治体の資源ゴミに出せますが、大量だと回収されないことがあります。ルールに従って少しずつ出す必要があります。
気持ちの整理をつける儀式
在庫処分は、失敗を認めるようで辛い作業です。
しかし、「この経験は無駄ではなかった」と自分に言い聞かせ、部屋も心も空っぽにして、次のステップへ進むための儀式と考えましょう。
まとめ
「本はたくさん刷らないと安くならない」というのは、過去の常識です。
今はPODや電子書籍など、在庫を持たずに出版する方法があります。
初めての自費出版なら、まずは在庫リスクのない方法で小さく始め、手応えを感じてから紙の本を大量に作るのが賢い戦略です。
在庫の山に埋もれることなく、身軽に、自由に出版を楽しんでください。
